『超・箇条書き―――「10倍速く、魅力的に」伝える技術』を読了したのでご紹介。
著者の杉野幹人さんは、経営戦略やマーケティング戦略、新規事業等の経営コンサルティングプロジェクトを手がけるプロのコンサルタントであり、東京農工大の特任教授でもあります。
シリコンバレーで一緒に仕事をした500人以上の起業家のプレゼンや提案資料から、箇条書き(Bullet points)が持つパワーと技術を学んだ一方で、日本では箇条書きがただの羅列にとどまり効果的に使われていないことを痛感。
その課題意識から、ただの箇条書きに終わらないメソッドである「超・箇条書き」を知ってもらうために本書を執筆したのだそうです。
「超・箇条書き」を活用することにより、企画書や提案書、報告書などの「伝えるチカラ」がパワフルになることは間違いありません。
どんな本?
現在、そしてこれから迎える社会は「情報過多」の社会。
ビッグデータや人工知能という言葉が流行っているが、その前提には「情報量に対して人間の情報処理能力が足りていない」という時代の流れがある。ゆえに、それら大量の情報を処理する技術にスポットライトが当たり、また、人間ではなく機械が自ら学習して情報処理する技術が注目されるのである。これは好き嫌いの問題ではなく、不可逆の現象だ。
情報を仕入れるのは容易になり、相対的に情報を多く伝えること=長く伝えることの価値は減っていく。
むしろ、「短く、魅力的に伝える」=情報を選別して少なく伝えることの価値が増えていく。
だから「箇条書き」こそが、これからの時代を勝ち抜くための最強のスキルとなる。
ただし、箇条書きは誰でも「知っている」ようでいて、「使いこなす」ことができている人は少ない。
本書では、経験による普通の箇条書きから一歩抜け出し、3つの技術的側面から「全体像を分かりやすく」「関心を持たせて最後まで読ませて」「相手に行動を起こさせる」ことを「超・箇条書き」として解説しています。
早速、ご紹介しましょう。
超・箇条書きの第一歩、「構造化」で全体像を一瞬で伝える
- 「状態・現象」を伝える文=自動詞(~となっている)と、「行為」を伝える文=他動詞(~する)とを分ける
- 箇条書きのつながりに時間が流れていれば「直列型」で伝え、その逆の場合、箇条書きのつながりに時間が流れていないときは、「並列型」で伝える
- 「ポイントは3つ」のように冒頭で宣言する=ガバニングにより、相手の頭のなかに「これから伝えられること」を受け止めるための引き出しをつくる
よくやってしまいがちなのが、「行為」を伝えるべきところ=他動詞とすべきところを、自動詞にしてしまうこと。
上司にトラブル発生を報告する際など、無意識に失敗を隠そうとしてしまう場面などで、原因となる「行為」があるはずなのに「状態」で伝えてしまう。
それでも情報は伝わりますが、状態でとらえるのと行為でとらえるのとでは目的が変わってくるので、結果的に誤った対処となってしまいます。
2点目として、「時間の流れ」でレベルを整えることも、伝える相手の理解ストレスを減らすことに繋がります。
先のトラブル発生の例であれば、対策会議が開かれてそれを上司へ報告する際は、「問題の発生→解決策の立案→結果」という問題解決のプロセスを「過去→現在→未来」という直列型で伝えることになるでしょう。
反対に、その中の問題点のリスト、あるいは解決策のリストは「並列型」で伝えることになります。
この例で言えば、直列型の枠組みのなかに並列型の情報を組み込んだ構造で報告すれば、伝えたいことの幹と枝が明確になるので相手もすっきりと理解することができます。
3点目のガバニングは、ブログを書く人にとってはおなじみの手法ですね。
記事タイトルや見出しのなかに、数を入れると読まれやすくなるのはよく知られています。
これは、仕事の面でも同じこと。
日常的に使うメールや提案書、企画書などでも、ガバニングを取り入れることで相手が受け入れる準備が整うので、内容を読み飛ばされず、相手を読む気にさせやすくなります。
箇条書きは、キャッチコピーに比べれば文字数が多くて情報量も多いが、ベタ書きに比べれば少ない。 だからこそ、文だけではなく、構造にも意味を語らせることで、情報を補い、相手の情報処理を助けることが可能なのだ。
「自動詞と他動詞の使い分け」「直列型と並列型で時間の流れを整える」「ガバニング」の3つでレベル感を整えることが、全体像を一瞬で伝えることの入口となります。
あなたの話を聞く理由は何?「物語化」でフックをつくる
しかし、この箇条書きは自分に関係のある話としてすぐには頭に入ってこない。 自分には関係のない話というか、自分に投げかけられている感じがしないのだ。例えば、このような改善策の箇条書きは、他社でも誰かがその上司に向かって書いていそうだ。もっと言えば、数十年前 からこんな箇条書きはどこにでもありそうだ。きれいごとというか、一般論のようで、生々しくないのだ。そのため引き込まれない。
わたしはこの一文を読んで、ドキッとしました。
かつての上司に「分かるんだけど、ピンとこない」と何度も言われたことがあるのですが、原因はこの「引き込む」提案になっていないということだったのではないかと思ったのです。
上記の「レベル感を整えて構造化する」は行えていても、わたしのように「引き込む」見せ方となっていない人が多いのではないでしょうか。
著者は、引き込むためには、「物語化」してフックをつくることが必要だと言います。
物語化するための技術が、「イントロづくり」「MECE崩し」そして「固有名詞を使う」の3つ。
イントロづくりは、相手や相手が置かれているコンテキストに注意を払いつつ、「相手が期待していること」をダイレクトに伝えること。
MECE崩しは、ロジカルシンキングで良いとされる「漏れなく、ダブりなく」な絶対的MECEにこだわらず、重要なことだけにフォーカスした「相対的なMECE」で伝えること。
固有名詞を使うのは、相手に具体的なイメージを換気させることで、伝える情報が少なくても相手側のそれまでの経験やそれに関するコンテキスト情報が加味されて「身近なもの」として情報処理がなされるので、よりクリアに理解でき、関心をもってもらう効果があります。
伝える側はついつい聞いてもらって・読んでもらって当たり前と考えがちですが、相手側に理由がなければ受け止めてもらうことはできません。
聞いてもらう・読んでもらうための、「生々しい」フックを用意しましょう。
読後に相手の心に何を残すか、「メッセージ化」でスタンスをとる
箇条書きは、相手にとって情報処理をする価値があるもので、かつ心に響くものでなくてはならない。心に響くからこそ、新たに行動をしてくれるわけだ。相手の心に響かせ、そして動いてもらうために文の表現を磨くことを「メッセージ化」と呼ぶ。この「メッセージ化」こそが、人を動かす箇条書き、『超・箇条書き』の第三の要素だ。
では、人を動かすための「メッセージ化」の要件は何か。
それが、スタンスをとる=自分の立ち位置を明確にすることだと言います。
自分の立ち位置を意思表示して初めて、相手の感情を動かして関心を呼び、期待する行動へとつながります。
スタンスをとるための技術が、「隠れ重言を排除する」「否定を使う」「数字を使う」の3つ。
隠れ重言というのは、相手の置かれているコンテキストを踏まえると当たり前のことなので伝える意味のないことを指します。
そんなことは書かないという人も、本書で紹介されているNGワード集を見ていただきたいと思います。
例えば、「~を改善する」「~を見直す」「~を推進する」「~を最適化する」など。
企画書や提案書、報告書などで使ってしまいがちですが、何を・どのようにを伝えないと何の意味もない言葉となります。
自分のつくった書類をチェックしてみたら、そこらかしこにありました。
否定を使うというのは、「何をしないか」を明示して強調することで、相対的に「何をするか」の強い意志を伝える方法です。
本書中では、「AよりもB」「AからBになる」といった、ソフトな否定が具体的な事例とととも紹介されています。
そして「数字を使う」、これは形容詞や副詞を数字に変えることで、相手が解釈する情報処理に手間をかけさせず、一気にイメージしやすくするということです。
箇条書きの目的は、最終的に相手に期待する行動をとってもらうこと。
そのためには、構造化といった論理展開だけではなく、スタンスを明確にしたメッセージ訴求が欠かせないのです。
まとめ
普段何気なく書いている箇条書き。
分かりやすいようにレベル感をそろえることは何となく意識していても、どういうポイントで揃えれば構造化されるのかまで意識したことがない人のほうが多いでしょう。
また、構造化してもそこはゴールではなく、関心をもってもらうための「フック」、感情を動かし行動につなげるための「メッセージ」までつなげて初めて目的が達成されます。
そして、これはセンスではなく技術です。
技術であれば、ポイントを踏むことで確実に自分のものにすることができます。
『超・箇条書き―――「10倍速く、魅力的に」伝える技術』で、「伝えたつもり」を脱して、「伝わった」「その後のアクションにつながった」「活躍の場が広がった」状態をつくりだしましょう!